医療分野のAI動向から学べる事
プロフィールに書いてるので公開情報ですが、医療従事者向けメディアm3のAI関連の記事執筆を担当しています。先日も日本有数の医療機関である順天堂大学とソフトバンクの共同研究講座設立シンポジウムの取材に行ってまいりました。今日は、このシンポジウムも含めて最近取材した医療AI関係のネタで知財分野にも使えそうなものを紹介してみようと思います。
AIが(わざと)誤診をしたら、医者にどんな影響を与えるか
医者がAIの支援を受けながら患者の診察をするにあたって、AIが(わざと)誤診をしたら医者の診察結果にどんな影響があるか、という調査です。
結果だけ聞いてみると「ベテランの医師はそんなに影響を受けない(正しく診察できる)」「経験が浅い医師はそれなりに影響を受ける(AIの診察結果に引きずられる)」という、そりゃそうだよねというものでした。なんですが、こういう知見に基づいてAIの社会実装の在り方を議論していくべきだと思います。
知財業界でも、例えば特許庁の審査官がAIを補助的に使うようになったときにどうかと考えると、同じことが起こると思われます。こういう調査はしてほしいですね。
製造業の世界では「抜き取りチェック」という考え方があります。数万個作ったときにランダムに何個か抜き出して品質をチェックすることで、製造ライン全体の品質をチェックする仕組みですね。AI活用にも同じ考え方が導入されるかもしれません。
人とAIが音声会話するときは「フィラー」が重要
医療AIというよりは日本語会話AIに関する話題ですが、人間同士が会話するときに「フィラー(えーと、あのー、みたいな無意味な言葉)」が重要で、人間とうまく会話するために意図的にフィラーを差し込む対話AIを作ったという話がありました。フィラー無しでAIが全力で会話すると、ほとんどの人間の処理速度ではパンクしてしまう、フィラーの間に人は考えを整理しているのだそうです。音声書き起こしAIではフィラーを削る議論ばかりなので新鮮でした。
医療の話に接続すると、医師が患者を問診してカルテを書くときに「情報が劣化している」という話がシンポジウムでありました。熱があるとか顔が赤いとか声が掠れているとか、そういうテキスト化しやすい情報は書けるが、顔がどれくらい赤いとか声がどれくらい掠れているとか、そういう情報が失われているんだという話をしていました。
会話中に発せられるフィラーが「その人が考えている」サインであるならば、書き起こし時にフィラーを削ってしまうのは大事な情報を失わせてしまっているのだなと思いました。発明ヒアリングのときとか、結構重要な考え方になるかもしれません。
「疾患を特定できる」「治療方針ごとの治療効果を推定できる」「治療方針を決定できる」の間にある壁
AIが人間の医師より正確に疾患を特定できて、いちばん治療効果が高い(可能性が高い)治療方針を特定できる今、それでもなお、なぜ人間の医師が治療方針を決定しなければいけないのか、という話がありました(シンポジウムではなく4月にあった医療系の学会にて)。
言葉を選ばず言えば、その理由は「医療AIは、病気のことしか分かってないから」というものでした。患者がその治療を行う費用を払えるのか(短期、長期)、その患者がその治療を継続して行えるのか(通院、服薬など)、病気の診察と治療方針の決定だけではなくて、その後の患者の人生に(も)医師が責任を持つ、ということなんですね。
「病は滅した。しかし、患者も死んだ」という話もありますが、手術そのものの短期的な話では無くて、「患者は生物的には回復した。しかし、社会的には死亡した」とならない必要があるわけです。知財分野に無理やり例えるのは止めますが、事業活動でも良くありそうな話じゃないでしょうか。
まとめ
以上、最近取材した医療AI関連の話題の中から、知財分野でも役立ちそうな話を紹介してみました。「AIの社会実装(というとチープですが、実務への実装)」という文脈では、他分野からも学べることは色々あると思います。医療に限らず、DXに関する取材をして、他分野の知見もシェアしていければと思います。
