自分たちの知財活動に自信がありますか?
突然ですが「知財DXが進まない→そもそも自社の知財活動の意義が説明できていない」という側面があると思っています。今日のテーマは、ずばり「自分たちの知財活動に自信がありますか?」です。
一度も登録になったことのない特許
特許の内容
自分が開発部門から知財部門に転籍(知財部の立ち上げ)したのは2008年。初めて手渡された特許のこと、今でも覚えています(特願平08-310841)。要約の課題・解決手段、請求項1は下記です。
【課題】 プリント基板の撮影画像を取り込んで実装部品やはんだ付けの良否を判定する外観検査装置において、不良が発生しても基板を別の場所へ持ち運ばなくても良く、リアルタイムで処理できるようにする。
【請求項1】部品を実装した基板の撮影画像を取り込んで該部品やはんだ付けの良否を判定する外観検査装置の集中管理システムであって、各外観検査装置よりの画像信号を制御装置からの切替信号により切り替える切替器と、切り替えられた画像信号により画像を表示するモニタを備え、不良と判定された箇所の検査を前記モニタの表示画像により行うことを特徴とする外観検査装置の集中管理システム。
ざっくり説明すると、下記のような技術です。
・工場内にプリント基板(電子基板)の製造ラインがある
・製造ラインには画像検査装置が1台または複数台組み込まれている
・画像検査装置で不良と判定された場合、検査結果と画像がLANを介して製造ライン外にある集中管理装置に送られ、そこで人間が改めて判定をする
いまとなっては当たり前になっている技術です。
審査経過
この特許の審査経過は下記のようになっています。
◆審査記録
特許願 1996/11/21
手続補正書(自発・内容) 1997/10/08
出願審査請求書 2003/11/06
刊行物等提出書 2004/10/20
刊行物等提出による通知書 2004/11/24
ファイル記録事項の閲覧(縦覧)請求書 2004/11/25
ファイル記録事項の閲覧(縦覧)請求書 2004/12/07
拒絶理由通知書 2005/01/11
手続補正書(自発・内容) 2005/03/09
意見書 2005/03/09
ファイル記録事項の閲覧(縦覧)請求書 2005/04/14
刊行物等提出書 2005/04/20
刊行物等提出による通知書 2005/05/31
ファイル記録事項の閲覧(縦覧)請求書 2005/06/02
拒絶理由通知書 2006/03/14
意見書 2006/05/11
拒絶査定 2007/03/13
審査前置移管 2007/05/24
刊行物等提出書 2007/06/04
刊行物等提出による通知書 2007/07/10
ファイル記録事項の閲覧(縦覧)請求書 2007/07/13
前置報告書 2007/08/02
審査前置解除 2007/08/10
ファイル記録事項の閲覧(縦覧)請求書 2009/04/15
◆審判記録
審判請求書 2007/04/12
審決 2009/03/17
見出しにも書きましたが、本件は一度も登録になっていないので、結果は下記です。
平成8年特許願第310841号「外観検査装置の集中管理システム」
拒絶査定不服審判事件〔平成10年6月9日出願公開、特開平10-153556〕について、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
当時の知財部のボスであるCTO副社長は、「山田くん、競合はこの特許にビビってんねん」とたびたび言っていました。特許を学び始めたばかりだった自分は(いや、そもそも特許庁に拒絶されとるがな)と内心思っていました。
結果、負けましたが審決取消訴訟まで行きました(判決文)。
競合他社の動き
前述のように、最初の拒絶理由通知書が2005/1/11に出されるわけですが、同じ年にこんな動きがあります。
2005年10月 実装ライン品質改善ソリューションQ-up Navi Q-up Naviにおけるデータ収集プラットフォームについて(OMRON TECHNICS:オムロン社の社内論文誌)
従来、基板の実装生産ラインでは、検査機は、「不良をはねる」ためだけに利用するに留まっているのが現状である。しかし、検査機が収集する「ラインの品質データ」を活かし、ラインの不良撲滅へ結び付けてこそ検査機の付加価値を最大限に引きだすことができる。この考え方に基づき、「不良の要因特定」「工程改善・安定化」「不良の未然防止」といった品質改善のソリューションとして開発したのがQ-up Naviシステムである。本稿では、Q-up Naviシステムが提供するサービス概要および、Q-up Naviシステムが実装検査機と接続する上でのデータ量の課題および検査機依存性への課題とそれを解決するための検査画像収集ロジック、データ収集プラットフォームの実現方法に関して述べる。
なんか、特許の内容と似た感じのことやってると思いませんか。ちなみに、2003~2005年で下記のような動きもあります。
2003年7月 オムロン:商標出願「Q-upNavi」(2004年2月に登録)
2005年6月 オムロン:「企業の公器性報告書 2005」配布開始
リコーマイクロエレクトロニクス(以下 RME)様は、1990年にオムロンの外観検査装置を導入していただいて以来のお客様です。このRME様においても、OA・通信機器の小型化・高性能化にともなって、基板の実装工程に求められる品質管理レベルが高くなってきていました。そこでオムロンは、外観検査装置とともに、SMT(表面実装)工程改善支援システム「Q-upNavi」をご提案し、2004年6月から試験導入していただくことになりました。
2004年6月からQ-upNaviの試験運用を開始しているとありますね。
真実は当事者にしか分かりませんが、特許の出願人サイドからは
・商標を取得して(2004年2月)、
・お得意様の工場で試験運転を始めて(2004年6月)、
・拒絶理由通知の内容(2005年1月)および/または意見書・補正書の内容(2005年3月)を確認したうえで、
・提供する機能を決めて、
・Q-up Naviの話を表に出し(2005年6月)、
・正式に広報を始めた(2005年10月)
このように見えるわけです。あくまで仮説ですが。
自社の知財活動の効果測定はできているか
CTO副社長は、公開情報以外にも情報を持っていたかもしれません(それこそオムロンの偉い人とも意見交換などしていたかもしれません)。ですが、一兵卒の自分であっても、自分がこの特許に関わり始めた2008年時点の公開情報を調べれば、この記事で紹介した内容は把握できたわけです。そうしたら、自分も「競合はこの特許にビビってんねん」と思えたかもしれません。
「特許を何件取得しました、競合と比べて多いです」みたいな分析は確かに大事だと思うんですが、「他社がビビる特許を出せている(登録にならなかったとしても)」と自信を持って言えるかも同じくらいかそれ以上に大事だと思うわけです。
登録になることは特許の影響力を高める一つの要素ではあるが、一つの要素でしかない。それより、相手がビビる特許を出せているかが大事。これを知財キャリアの最初に教えてもらったことはとても幸運だったと思います。
この辺の効果測定の話って、あまり聞いたことが無いように思います。閲覧請求や情報提供が多いことより、本記事に書いたような仮説で構わないのでもう一歩踏み込んだ特許の効果測定が気軽にできる知財DXサービスがあると良い気がしますね。
まとめ
知財DXによって明細書の作成や中間応答が楽になるかもしれません。アイデア発掘や創出もこれまで以上にできるかもしれません。でも、大事なのは、その結果として、自社の競争力に貢献するアウトプットが生み出せるのかです。
知財DXすることによって強い特許が出せるならやればいいし、出せないならやる必要はない。強い特許とは何なのか、自分が納得でき、自社の経営陣が納得する答えを用意する。もし、知財DXの推進に社内が前向きで無いのであれば、まずは解像度を上げて上記の問いから考えてみてはいかがでしょうか。
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